言われるままに頭を上げると、三和さんはにこにこしていた。
「お前がずいぶん本気で操立てしてるのは伝わったよ。俺、感動した。
なあ、その好きな子ってどんな?」
「は? あ、なん、なんで、」
「何て名前? 同い年? 俺が知ってる子?」
俺を見据えた目が語りかけてくる。
全部知ってるよ。
言っちゃえよ。
何もかも。
ここまできてやっと気付いた。この男は、全てお見通しの上で、わざと俺の口を割ろうとしている。
言い逃れできないように自らその名を呼ばせ、その想いが嘘偽りでないか、自分の目の前で誓わせようとしているのだ。
手足が急に冷たくなる。あと少し我慢が効かなかったら、たぶん泣いていた。この人は俺の慌てふためく様を見て、内心ゲラゲラ笑い転げていたのだ。
「帰ります」
俺はこの時、貞操が守られたことに安堵するのも忘れるくらい、ショックを受けていた。
この人のことはいい人だと思っていただけ、余計に辛い。
ああほんとうにつらい。何で俺はいままでこの人を少なからず信頼してたんだろう。そりゃあいささか口さがない時もあったけど、むやみに人をいたぶるようなことはしない、むしろ暴走する他人をなだめすかしたりフォローしたりするような奴だと思っていたのに。
ばかみたいだ。
「大丈夫か? 顔色悪いんだから無茶すんなって」
「離せ!」
立ち上がった矢先、ものすごい力で腕を掴まれる。三和さんは俺をベッドに引きずり倒すと、上に圧し掛かって首に手をかけながら顔を近づけた。
「オレはねえ、お前みたいに何もかも我慢してへらへら笑ってる奴、無視できないんだよ。ほとんどビョーキだよな」
「、ッうう……ぐ、……!」
「好きな人が、自分じゃない人と付き合ってるのを、目の前で見続けながら過ごすのって、どんな気持ち? ねえねえ」
親指が喉仏に食い込む。呼吸が閉ざされて、視界がゆっくり霞んでいく。
死ぬのか。こんな頭のおかしな男に、鶏みたいにくびり殺されておしまいなのか。
「他人の幸せのために、お前が不幸せをしょってるってこと、あいつらは知らないのに…かわいそうに…」
「ァ…」
きつく閉じた真っ暗闇の瞼の裏に、背中が見えた。
隣に立つもう一人と並んで、やがてゆっくり歩いていく。
「アイチ」
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