誰かの気配で目が覚める。
井崎はゆっくりまぶたを開いて、寝ていた時の体勢のまましばらくじっとしながら、全身を覆ったしびれるような感覚が指先から抜けていくのを待った。
自分を見下ろしているいやに若い(そして装飾が多く実用性に欠けた服を着ている)看護士の正体に気付くと、井崎は呆れたような眼差しを向けた。
「何よその表情、かわいくなーい。せっかく忙しい仕事の合間をぬって、お見舞いに来てあげたのに」
ぷんぷくり~ん、と声に出して言いながらレッカはわざとらしく頬を膨らませてみせ、かと思えば次の瞬間には得意げな笑顔に切り替える。「新曲PV用の衣装なんだよ。かわいいでしょー」
井崎が緩慢に頷くと、「うんうん、やっぱ男の子はナース好きだよねえ」とひとり満足そうな顔をする。
(念の為に弁解すると、井崎はさほどナース服に思い入れはない)
「なんか静かだね。喋んないの?」
井崎は枕元からメモ帳を取り出し、さらさらと書き付けて一枚破りレッカに手渡した。
『喋れないんだ』
それを読んだレッカは「何で?」と間髪入れずに問い返す。
『ノドをやけどしたから』
「どうやって?」
『さあ』
「ずっとベッドにいたんでしょ?」
『そのはずなんだけど』
「わけわかんない」
『ごめん』
井崎は眉をちょっと寄せて苦笑いを浮かべた。レッカは心の奥で炎が灯るのを感じた、何か形容しがたい感情が、
今はまだくすぶるばかりの火種になってじりじりと音を立てている。
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