三和さんはトーストにベーコンエッグを乗せ、ものすごい量のケチャップを回しかけている。あまりにダイナミックすぎて皿はおろかテーブルにまではみ出ているけど、まるでお構いなしだ。血みどろの殺害現場に見えなくもない。
俺がそのびっくりなお行儀に思わず見とれていた(悪い意味で)時、
「ごめん」
「え」
「首。夕べ。ごめん」
バターナイフでケチャップをべたべた塗り広げながら、三和さんは下を向いたままぼそっと呟いた。「ちょっとやりすぎた」
ちょっとかよ!
とは言わないでおく。一応すまなそうな表情はしているし、この人なりの謝罪なんだろう。
「でもさ、やっぱりわかんねえよ。好きなら、奪い返しちゃいなよ。友達だからとか、傷つけたくないとか、たぶんそういう考えなんだろうけど、そんなの言い訳にしかオレ思えない。井崎が我慢しなきゃいけない理屈なんて、どこにもないんだよ。
もっと本能に忠実になりなよ。今のままだと、お前おかしくなっちまうよ」
三和さんはひと息にまくし立てて、トーストにかぶりついた。
「……俺は別に、遠慮も我慢もしてないですよ。俺を堕落させようったって」
「うそだ」
短く吐き捨てるような罵り。「死にかけた時に名前呼ぶくらい好きなくせに」
「神様の名前呼んじゃ悪いかよ」
「神様だァ?」
「そうだよ」
不思議なことに、あれほど心の奥で澱んでいた感情が、自分でも驚くほど素直に口からこぼれていた。
「アイチも、森川も、俺の友達で神様だ。一緒にいるだけで幸せだし、一緒にいられなくても、あいつらが幸せなら俺はそれでいいんだ。
理屈なんか知らねえ、我慢なんかしてねえ。全部ぶちまけて得るものより失うものの方が大きい、だから腹にしまい込んでるだけだ」
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