護送車の金網越しに見えたサテライトは、工場の煙と瓦礫で出来た灰色の街だった。
以前暮らしていたダイモンエリアも無法地帯だったが、こことは違い猥雑な活気が満ちていた。夕暮れ時にはどきついネオンサインが煌き、野望と打算が飛び交う中、マリアはみじめだが平穏な日々を過ごしていた。それでよかったのに、それさえ許してはもらえなかった。
左胸が疼く。引き攣れるような痛みをこらえ、きつく目を閉じた。
囚人達は皆一様に押し黙り、ある者はマリアと同じように外を眺め、ある者は視線を床に落としている。彼らは今や物言わぬ家畜だった。焼印を押され、埃っぽい荷車に押し込められてがたごと揺られている。行く先は屠殺よりもっと緩慢で残酷な死が待ち構える、世界の果てだ。
(さびしいところ……何もない。でもきっと、私にはここがお似合いなのね)
ダイモンエリアに近頃出回っている違法薬物流通への関与。
剥き出しの肩に触れるざらついた床、圧し掛かる体、凌辱と暴力は嵐のように一瞬でマリアから何もかも奪い去ってしまった。身に覚えの無い罪への尋問がエスカレートするのに時間はさほどいらない。最初からそのつもりだったのだ。みんな笑っている。面白がっている。供物が怯え、震え、泣くのを心待ちにしている。
セキュリティの指が全身を弄び、降りかかる理不尽への憤りを打ち砕きなけなしの尊厳と気力を引き裂いていく中、マリアはトルソを思い浮かべていた。遠い昔、まだシティ在住の幼い少女であった頃、街角のショーウィンドウ越しに眺めていたトルソ、なめらかな曲線を描く象牙の女の胴体。彼女には首も手足もなかったが、流行の服を優雅に着こなし、静かに佇んでいる姿は美しかった。いつか自分も大きくなったらあんなふうになりたい、きれいな服や宝石で飾って、誰かすてきな男の人と恋をしてみたい――
滑稽なほど分不相応な願いだ。身の程知らずの望みを抱いた罰が今、自分に下されているのだ。
誰かそうだと言って。この仕打ちが因果応報であると。お前の行いによるものなのだと、言って。
そうでなければ、あまりに救われない。
手を引かれるまま別の部屋へと移された。
何もない薄暗い部屋にぽつんと置かれた機械仕掛けの椅子に座らされる。
「まあねえ。普通は顔にでっかくやるんだが、なかなかかわいい顔をしているし、余計な傷があっちゃあ商売するにもやりづらかろう」
背もたれがゆっくりと後ろに倒れ、仰向けの状態になる。レーザーの照射器がきらりと光った。
車がひときわ大きく揺れて、止まった。出ろ、とセキュリティが促す。吹き荒れる風は、鉄の臭いがした。
マーカーは、左の乳房の内側で冷ややかに眠っている。
PR