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【2025/07/28 14:58 】 |
めも
たちかぜについて。

なんかこういう、えせ引用風なにやらを考えるのはきらいじゃないです。
「……航空攻撃部隊『かげろう』、隠密部隊『ぬばたま』と共に我らが帝国を守護する陸上強襲部隊『たちかぜ』。機械の竜・ディノドラゴンが戦士の多くを占めるが、人間も所属している。
『サベイジ』、粗野な未開の人間と称される彼らは首都より遠く離れた北西部――すなわち敵国・ユナイテッドサンクチュアリとの国境線付近に敢えて身を置いている。山脈から吹く冷たい風、少ない雨量、ひび割れて砂塵の舞う脆い土、実りの少ない植物。鋼に包まれた巨躯を持つディノドラゴンはともかく人間が生きるには厳しいこの土地で彼らは集落を作り、家畜を飼い、武器を鍛え、子を成し、独自の文化を築いている。
<中略>彼らの抱える問題の中でもとりわけ特筆すべきは乳幼児や妊産婦の死亡率、そしてそれに伴う男女比率の偏りである。多くのクランと同様、たちかぜもまた治癒能力を持つ者が女性に限られているが、『彼女ら』=呪術師<シャーマン>は軍の治癒・後方支援を一手に担う貴重な存在であるにもかかわらず全体に配置できるほどの数がいないのが現実であり、その増強はたちかぜの重要な課題とされている。
だが妊娠、出産、子育てを経ての戦線復帰には多大な時間がかかる。一人の離脱で戦力に大幅な差が生じ、劣勢を挽回するのが難しくなるだろう。『彼ら』戦士たち(たちかぜ陸軍のディノドラゴンは雌もいるので不正確な表現だが、便宜上そう称する)の無謀とも思える程の勇猛果敢ぶりは、ひとえに『彼女ら』の援護を信頼した上での行動なのだ。
戦力増強のために戦力が低下する、このジレンマが悩みの種となっている。しかも(ヒューマンの特性上)けして多産ではなく、一度に産まれる子供は1人ないしは2人が殆どである……」
 
 
「ドラゴン・エンパイアの軍隊シリーズII たちかぜ」(竜帝書房)より抜粋
 
****
 
夕陽の沈みつつある荒野に、ぽつんと少女が一人座っていた。地平線から吹く向かい風に薄い水色の髪は乱れ、焚き火のかぼそい炎から立ち上る煙はちぎれて飛ぶ。
「そろそろいいかな」
少女はかけていた鍋を降ろしながらひとりごちると、灰を詰めた皮袋を取り出して炎の上で一気に空けた。完全に火の気が消えたのを確かめ杖の先で中をかき回し、ぼろぼろになった円盤を引きずり出す。方角や属性などを表す複雑な文様が描かれた盤は、熱によってひび割れや傷がいくつも刻まれていた。
炎と円盤で吉凶や未来を判じるこの占いが少女はどうにも不得手で、失せ物の行方か明日の天気くらいしかうまく視ることができない。しかし占い自体は嫌いじゃないので、今日も薬を煎じるついでにちょっと一発運試し、といったくらいの気持ちでやってみたのだ。
鍋の中身を布で漉し、壺の中へ流し入れる。今はどろどろの液体だが放っておけばほどなく冷えて固まるだろう。何度も失敗を重ねた甲斐あって、膏薬作りはだいぶ上達してきた。煮詰められた薬草の刺激的な匂いが特徴で、打ち身や切り傷の痛みを和らげ治りを早める効果がある。
まだ少し熱い円盤の灰を手で払って、じっと見つめた。
 
(……『大きな流れ・東』……)
 
傷跡はそう示していた。どういう意味なのだろう?
知りたいことをはっきり決めずに行った場合は、占者自身の未来が出る。だがそれがいつのことか、どのような形で現れるのか、少女の力量では読み解くことはできない。
何もかも未熟だ。術の腕前も薬作りも占いもうまくいかないことが多いし、戦に出たこともない。ないないづくしの子供っぽい自分が、時々ちょっと嫌になる。
胡坐をかいた状態からそのまま後ろに寝転がる。茜色から薄紫に染まりゆく雲、三日月の上に瞬く宵星。オレンジがかった黄色い瞳で夜空を見つめながら少女はしばらくそのままぼうっとしていたが、やがて小さなくしゃみが一つ出た。
「……寒いな」
夜風に吹かれてすっかり体は冷え切っていた。身に着けているのは下着と全身に巻いた包帯、その上から羽織ったコートという軽装なのだから当然ではある。
起き上がってフードを深く被りなおし、体の砂を払う。周りに散らばった道具の片付けや焚き火の後始末を終えると、少女は踵を返し走り出した。

少女はサベイジ・シャーマン。たちかぜを構成するサベイジ一族の、呪術師見習いだ。
あの三日月が満ちる時、14歳の誕生日を迎える。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
集落に戻ると、中央広場が騒がしかった。横たわる男たち、その間を忙しげに動き回る女たち、血の匂いに一瞬で肌が粟立つ。まさか、知らない間に戦が行われていたのか。
「母様」
手当を施す女のうち一人が、少女の声に反応して顔を上げる。「ちょうどいいところに来た。お前、今日は薬を作っていたね。この子等に塗っておやりなさい」
「母様、これは……戦があったの? おれ、気付かなくて……」
「ふふ、そうではないよ。今日はデスレックス殿の率いる小隊と合同訓練の日でな、この子等も来たる初陣に備え模擬戦闘を行ったらしい。それにしても、ずいぶん派手にやられたものだ」
母親が「この子等」と言う通り、横たわって呻く男達はみな少女と変わらぬ年頃の少年ばかりだった。あちこち打ち身や切り傷を作ってはいるが、命に関わりそうな怪我を負ったようには見えない。
本気で心配したのがちょっと馬鹿馬鹿しくなって、ため息とともに肩を落とす。
「なんだ……じゃあ、こいつで試してみよう」
手近にいた少年の傍らに膝をつき、先ほど作った膏薬を壺から指先で掬う。左脇腹に残された歯型の周りに付いた血と泥を拭き清め、そっと(最大限注意を払って)優しく塗り広げながら少年の体をまじまじ眺める。大人の男には及ばないが少女よりずっと太い腕や脚、幅の広い肩。この肉体と武器で、雄叫びを上げて大地を駆けるのだ。
「いいなああ……」
ぽわん、と思わず見とれる。
「おれもこういう体になりたいなあ……一日中薬を作ったり、呪文を唱えたりしてるより、おれも戦士になって直接敵と戦いたいや」

****

「帝都へ行き、かげろうの司令官ドラゴニック・オーバーロード殿へこれを届けよ」
呼びつけられた少女を前に、父は開口一番そう言い書状を差し出した。
「これは…?」
「成人の儀式を行うにあたって、報告書を提出する必要がある。本来ならば俺が赴くべきだが、近頃はユナイテッドサンクチュアリの一部にて内乱の噂があり詳細な情勢が伺い知れん。万一に備え、ここに残らねばならぬのだ。わかるな」
こっくりと少女は頷いた。なるほど、一族を束ねる父が戦場を遠く離れる訳にはいかない。
「わかった。父様の代わりにおれがいく。手紙を渡して、よろしく伝える」
いつも厳格な父の顔がほんの少し緩む。「良い子だ。お前には一族を預かる俺の名代として、『サベイジ・シャーマン』を名乗ってもらう。
出立は明朝になる。準備はこちらで整えるゆえ、今夜はよく休め」
「はい、父様」
 
 
自分の天幕に戻り、寝床に体を横たえる。奇妙な昂揚感に、背中がむずむずした。
少女は上半身を起こし、枕元に置いてある古い本を手に取って開く。世界地図に書き込まれた×印、集落の位置を表すそれを指でなぞり、右に記された「帝都」の文字へ滑らせた。
「帝都……どんなとこなんだろう」
生まれてから一度として集落から遠く離れたことはない。
 
****
 
サベイジは一族の総称で、シャーマンは己の職業だ。つまりサベイジ・シャーマンという名前が、少女個人を指すわけではない。が、一族の間で呼び合う名前は正式な場にはふさわしくないので、使わない。らしい。父の請け売りなので詳しくは知らない。
ということで、しばらくの間少女はサベイジ・シャーマンという名前を名乗り、そう呼ばれることになる。
 
少女は一族の中でも特に若い、未婚のシャーマンだ。
もうとっくに婿をとって子供を産める、成人の域のはずなのだが、彼女の父親である族長があれこれ理由をつけて婿選びを延ばし延ばしにしているためにそうした話とはまるで縁がない。
呪術師の証として全身に刺青をいれる儀式もずいぶん反対され、本来なら10歳のところをようやく去年受けた。
そしてそれを妻(少女にとっては母親)に咎められると、父親は決まってばつが悪そうに
 
「この娘にはまだ早い」
 
と言い出す。
おかげで、他のシャーマン(当然のように年上で、みな子供を産んでいる。少女と同年代のシャーマンも昔は一人だけいたが、6年前に病気で死んでしまった)にはいつまでもからかわれたり心配される。
「あんた、まだ閨のてほどきを受けてないんだって?」
 
 
「いやになっちゃうよなあ…」
少女とて、男と女が寝室で何をするのかくらいは知っている。ただ詳しいことは知らないだけだ。
閨のてほどきも薬や呪術と同じく母から娘へ伝えられる知識だが、少女の家では例によって父親が教えることに反対しているため授業が遅々として進まない。
陽の高いうちには教えられない、という掟に従い、母親は夜に少女の部屋を訪れようとするのだが、その前に決まって父親が寝床に引っ張り込んでいるのを少女は何度も目撃している。
 
 
婿選びは、少年戦士たちの成人の儀式でもある。
遥か古の時代は野性のディノドラゴンを討ち取っていたらしいが、今は代わりに軍の中から選ばれた精鋭相手に一騎打ちを挑み、大人としての力と度胸を試すという形に変わっている。
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【2011/10/14 12:24 】 | メモ | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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