セクトは俺の仲間で、弟で、息子だ。
ゴミ山で、死んだ母親の乳を吸いながら泣くあいつを抱き上げた時から、そうなった。
赤ん坊の育て方がわからなかった俺は、女の子の家(女の子はみんなそこに身を寄せ合っていた)に行った。
みんなびっくりして、くちぐちに心配したけど、出来るだけの協力はすると言ってくれた。
乳を与え、俺がスクラップを漁りに行く間面倒を見てくれたり、本当に親切にしてくれた。
「かわいいわねえ」
産んだばかりの子供を死なせてしまったのだという女の人は、ぱんぱんに乳房が張っていた。
赤ちゃんが乳を吸わないと、おっぱいが膨らんで痛いのだと聞かせてくれた。
その人はセクトをゆっくりあやして、それから決まって俺の頭を撫でてくれた。
お母さんというのはきっとこういうのなんだな、と思ったことを覚えている。
結果として、セクトは死なずに生き残った。だが、あの時乳をくれた人や、
面倒を見てくれた女の子の多くが死んだ。
セクトはそのことを、たぶんあまり覚えていない。
でも俺は、彼女達をたびたび焼却炉で燃やしたことと、その灰を花といっしょに海へ流したことを、
忘れる事ができない。
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